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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(オ)53号 判決

倉敷市川西町

上告人

日下公吉

右訴訟代理人弁護士

恩藤誠一

家本為一

東京都中央区日本橋通一丁目九番地

被上告人

日本通運株式会社

右代表者社長

早川慎一

右当事者間の土地返還請求事件について、広島高等裁判所岡山支部が昭和二五年一月二七日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨上告の申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由は末尾添附別紙記載のとおりである。

上告理由第一点に対する判断。

上告人が昭和一五年三月倉敷通運株式会社(その後、被上告会社に合併せられた)から本件土地を無償で借受けたことは、原審において、当事者間に争がなかつたところである。そして原審は、本件貸借については、被上告会社の請求により、上告人は本件土地を即時無条件で返還すべき約定であつたことを認定しているのであつて、原審挙示の証拠によれば右認定は十分首肯できる。原審が右確定した事実により、本件土地の貸借を使用貸借であると判断したことに何等の違法はない。弁論の全趣旨を判断の一資料とすることが違法でないこともいうを待たない、それ故論旨は理由がない。

同第二点に対する判断。

原判決の字句には少しく足らさる処あるの嫌がないではないが、要するに原審はその挙示の証拠に基いて本件土地は被上告人の請求あり次第即時無条件に返還すべき約であつたと認定し、その即時無条件とは有益費の償還などを主張して留置権の行使等をする様なことをしないで、直ちに返還する趣旨も含むものと認定したに外ならない、そして原審挙示の証拠を見ると原審が本件において「即時無条件」の趣旨を右の様に解したことが実験則に反するものでないことがわかる。所論の鑑定は記録で見ると、上告人が有益費を支出し、それによつて土地の価値が増加したことの鑑定であり、かかる鑑定は原審が上記の様な認定に到達した以上本件において全く必要のないものであるから、これが却下されたのは当然で、原審の措置に何等違法はない、そして有益費の償還請求権とかこれによる留置権とかは予めこれを放棄し得るものであること勿論だから原判決には所論の様な違法はなく論旨は理由がない。

よつて上告を理由なしと民訴第四〇一条第九五条第八九条に従い裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島保)

昭和二五年(オ)第五三号

上告人 日下公吉

被上告人 日本通運株式会社

上告代理人恩藤誠一、同家本為一の上告理由

第一点

一、原判決は

以上認定の本件土地貸借契約の内容に弁論の全趣旨を総合すれば本件土地の貸借契約はこれを使用貸借契約と認むべきで云々と事実を認定しこれを基礎に種々の判断を為し上告人に敗訴の判決を言渡された。

二、併し本件土地貸借の法律関係が使用貸借なりや賃貸借なりや永小作関係なりやは基本的重要争点であるから有力充分なる証拠により之れを決定せざるべからず然るに原判決は如此基本的重要争点を判断するに当り証拠によることなく弁論の全趣旨で認定せられた。

三、此点に於て原判決は重要なる争点を証拠によらず判断したる違法がある。

第二点

一、原判決は

上告人の原審に於ける

「留置権の抗弁を控訴人が被控訴会社から借受けた。宅地一七七坪には昭和十六年度から昭和二十三年度までの間に合計五九〇六一円一〇銭の有益費を支出して土地改良をなし現に有益費相当額だけ地価が増加しているから右有益費の償還を受ける迄前記土地を留置すると訂正主張し」

との抗弁を排斥するに当り

二、上告人の原審に於ける唯一の立証たる鑑定を鑑定せしめることなく制限し

「当事者間に土地貸借終了の除控訴人は本件土地を即時無条件で返還する旨定めあることは前叙認定のとおりでその約旨には控訴人が本件土地に有益費を支出するも本件土地返還に当りその儘還を請求しない趣旨を包含するものと解するのが相当と認めるから」と

判示せられた。

三、然れども現存有益費返還請求の債権は法律行為に基くものに非ずして不当利得の事実に基くもので貸借契約の内容に関係するものでない契約以後遂次に生じたる事実に基き発生するものなれば将来発生する債権の事前抛棄の問題であるから争ある場合には裁判官の意思解釈の範囲に非ず証拠により判断すべき重要事実の争点なり。

四、且つ所謂前叙認定の即時無条件とは貸借上の即時無条件であつて将来貸借上の事実より発生する債権の抛棄の意味に認定せられたものでない又貸借外の事実(占有)に基く民法一九六条同法二九五条により発生する債権の抛棄をも認定したものでない(であるから包含とかなんとか云うて補足してあるのです)

五、此点に於て原判決は上告人の留置権抗弁を誤解したる違法がある。

抗弁排斥に必要なる重要なる争点を証拠によらず判定した違法がある。

事実に因る債権を法律行為による債権と誤解した違法がある。

上告人抗弁につき唯一の証拠調を制限した違法がある。

以上

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